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2015/11/17
  • 教育研究情報

河野准教授(大学院)の論文がアメリカの生理学雑誌「Journal of Applied Physiology」に掲載

松本大学大学院健康科学研究科 准教授 河野 史倫


骨格筋は、速筋と遅筋に分類されます。速筋は体の中でも表層部に多く、大きなパワーを発揮できる筋です。遅筋は、骨に近い深層部に多く、持続的な活動を行うため、高いエネルギー代謝機能を持ちます。生涯の健康維持という観点からは、遅筋の特性を維持・強化することが大事だと考えられています。
これまでの研究から、運動が速筋を遅筋に近い性質に変化させることが報告されてきました。また、遅筋の特性は非常に獲得しにくいことも同時に示されてきました。しかし逆に、筋が不活動状態になった場合には、容易に速筋特性に変化します。
そこで、速筋と遅筋では根本的に何かが異なるのではないかと考え、今回我々は骨格筋に発生するエピジェネティクス*1をラットを使って調べ、その結果をアメリカの生理学雑誌「Journal of Applied Physiology」に発表しました。

運動などによって骨格筋が遅筋の性質を獲得する時、遺伝子から"遅筋化"に必要な部分が読み出され、コピーされます。そのためには、普段は折りたたまれている遺伝子が一度ほどける必要があります。この時のほどけ易さには、遺伝子が巻き付いているヒストンというタンパク質のアセチル化やメチル化という化学的な修飾が深く関係しています。
今回の研究の結果、速筋で多くコピーされている遺伝子では、このようなヒストンの修飾が顕著に見られ、速筋に必要な遺伝子は読み出し易い状態にあることが分かりました。しかし、遅筋では多くコピーされている遺伝子でもヒストンの修飾量が少ないことが明らかになりました。

さらに検討した結果、速筋の活動量が増加して遅筋化する場合も、アセチル化やメチル化と言ったヒストンの修飾を伴わずに、遅筋化に必要な遺伝子がコピーされるという結果が得られました。
以上の結果から、運動などの筋活動による刺激は、遺伝子がほどけにくい状態のまま、遅筋に必要な遺伝子をコピーしていることが分かりました。
このような遺伝子の読み出し易さの違いが、遅筋特性の獲得しにくさに関係していると考えられます。

参考:Kawano et al. J Appl Physiol 119: 1042-1052, 2015.




JAP2015.jpg
図の説明

速筋または遅筋のゲノム*2におけるヒストン修飾の分布を、次世代シーケンサーを用いて調べた結果。
上段は4番目リジン残基のトリメチル化、下段はアセチル化されたヒストン3の分布を表す。速筋で多くコピーされている遺伝子(青、約1,000種類の平均)ではこれらの化学修飾が転写開始点*3(横軸の0)付近で特に顕著に見られるが、遅筋で多くコピーされている遺伝子(赤、約1,500種類の平均)ではこれらの化学修飾を受けていない。

用語解説

*1エピジェネティクス: 遺伝子の配列に依存しない遺伝子発現の制御機構。例えば、遺伝子配列は正常でも、構造の凝集により発現不可能になっているなど。
*2ゲノム: 遺伝子全体のこと。
*3転写開始点: 遺伝子のコピーが始まる部分。ラットの場合、遺伝子全体に約2万箇所このような部分が存在し、コピーされた遺伝子はそれぞれが違うタンパク質を作るもとになる。
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